2008年12月01日

通用ピンインと訣別し、…

恥ずかしながら、これは私にはよく分りません。ただ、台湾文化の礎に重要なことであることは感じられます。詳しい方もおられるので、転載します。
by watanavi-------------------
【論説】通用ピンインと訣別し、混乱から抜け出しつつある台湾の言語政策
                    多田恵

1.「台湾客家語ピンイン方案」の公告

10月6日、台湾の教育部は「台湾客家語ピンイン方案」を公告した。
これは、客家(ハッカ)語のローマ字表記の規則である。

実は、客家語のローマ字表記の規則について、教育部は、1998年に「台湾客家語音標系統」(略称:TLPA)、2003年に「台湾客(家)語通用ピンイン方案」(略称:通用ピンイン)を公告している。

2003年の「台湾客語通用ピンイン方案」と、今回の「台湾客家語ピンイン方案」(以降、「客家語ピンイン」と呼ぶことにする)との違いは、実際にはそれほど大きくない。

たとえば、客家(ハッカ)という言葉を、
通用ピンインでは、「Hak ga」
客家語ピンインは、「hag ga」
と表記する(ここでは声調記号は省略する)。

客家語は、それを母語とする客家人が台湾の人口の約13.2%を占める。いわゆる台湾語(つまり、中国が「ビン南語」と呼ぶところのホーロー語)に次ぐ言語である。

上で見たように、今回の客家語ピンインは、それまでの通用ピンインとの違いは、少ない。

それなのに、なぜ、わざわざ変えたのだろうか。

これには、通用ピンイン派の影響力の低下が反映しているという背景がある。


2.通用ピンイン運動の経緯

通用ピンインというのは、1998年に、当時、中央研究院民族学研究所に所属していて、後に契約が更新されなかった社会心理学者の余伯泉氏が発表したものだ。中国で用いられている漢語ピンインを一部改変して、台湾で行われている中国語(北京語)、台湾語、客家語を同じルールで表記しようとするローマ字表記の規則である。台湾語部分は、日本在住の許極[火敦]氏がアドバイザーかつ推進者であった。

それまで台湾では、中国語のローマ字表記は、ウェード式が広く用いられていた。ウェード式は、1867年に駐清国イギリス大使館中国語秘書のトーマス・ウェードが考案したもので、その後、中華民国政府でも採用されたローマ字規則である。中華民国パスポートでは、一般的にこれが用いられていた。

ところが、中国では1958年以来、漢語ピンインを推進しており、これが今では中国語のローマ字規則として世界に公認されている。

たとえば、「中華」「台北」を、

ウェード式では、「Chunghua;Taipei」
漢語ピンインでは、「Zhonghua;Taibei」

と表記する。

通用ピンインが発表された背景には、台湾でも、中国が世界に認めさせた漢語ピンインを導入すべきではという議論があったことである。

漢語ピンインを百パーセントそのまま取り入れるというのは、当時の台湾の状況では、心情的に受け入れにくかったのであろう。

そこで漢語ピンインにいくつか手を加えた通用ピンインが、提案されたというわけである。

通用ピンインで、「中華」「台北」は、
「Jhonghua;Taibei」と表記される。

通用ピンイン推進派は、通用ピンインは、台湾語や客家語でも使えると主張して、実際に、台湾語や客家語を通用ピンインで記す方法を提案した。

台湾語や客家語は、1950年代から、1980年代まで、「(中)国語推進」の大義の下に、禁止されるなどの抑圧を受けた。

李登輝政権下の民主化により、台湾語や客家語は息を吹き返した。通用ピンインが提案された頃、「母語教育」あるいは「郷土言語教育」として台湾語や客家語が力を得つつあった。

通用ピンイン推進派は、これをうまく利用した。通用ピンイン派は、民進党政権に取り入って、2003年2月に「台湾客語通用ピンイン」を、同年9月に「中文訳音使用原則」(通用ピンインが示されている)を、教育部から公告させた。

つまり、客家語と中国語について、通用ピンインを採用させることに成功したわけである。


3.台湾ローマ字−教会ローマ字派とTLPA派の連合−による通用ピンインへの抵抗しかしながら、通用ピンインは、台湾で育ったものではない。いわば中国から接ぎ木されたものだ。通用ピンインが教育部に採用される前、1998年に、教育部は、台湾語と客家語の発音表記用に「台湾ビン南語音標系統」、および前述の「台湾客家語音標系統」を公告している。これは、TLPAと呼ばれている。

TLPAは、主に師範大学系の台湾語・客家語研究者からなる「台湾語文学会」が、民間で百年以上用いられている教会ローマ字(白話字)を元に提案したものだ。

通用ピンインに対して、TLPA支持者および教会ローマ字支持者は反発した。一つには次のような違いがあるからである。

たとえば、台湾語の「台北」を、
教会ローマ字では、「Tai−pak」
TLPAでは、「tai pak」
通用ピンインは、「Dai bak」

と表記する。

そこで、TLPA支持者と教会ローマ字支持者は、連合して、通用ピンイン派に対抗した。その結果、TLPAと教会ローマ字の互換性を図った「台湾ローマ字」(略称:台羅)が、2006年、教育部から「台湾ビン南語羅馬字ピンイン方案」として公告されたのである。

台湾ローマ字では、「台北」を、「Tai−pak」と表記する。

つまり、台湾語のローマ字表記は、通用ピンインに取られないで済んだのである。


4.馬政権下での通用ピンインの否定

民進党政権が下野して、馬英九が就任した後、9月6日、行政院のチームが中国語のローマ字表記として、中国の漢語ピンインを採用することを決議した。これで、中国語のローマ字表記から、通用ピンインが外された。

そして、10月6日の「台湾客家語ピンイン方案」で、客家語のローマ字表記からも、通用ピンインが外され、「通用ピンイン」は一過性の現象として、少なくとも政策の上では、完全に過去のものとなったのである。

10月6日の「台湾客家語ピンイン方案」は、これまで、台北市の客家事務委員会が出版した辞書などで用いられており、一部の客家語研究者が推進していたものである。つまり、一定の基礎を持っている。

したがって、今後台湾では、台湾語は2006年の「台湾ビン南語羅馬字ピンイン方案(台湾ローマ字)」、客家語は2008年の「台湾客家語ピンイン方案」、中国語は中国で1958年に制定された漢語ピンインが用いられることになる。原住民諸言語については、以前から用いられていた教会ローマ字が、2005年に「原住民族語言書写系統」として教育部から公布されている。


5.まとめ

通用ピンインは、中華民国体制との関係が曖昧であった民進党政権時代のあだ花であった。

皮肉にも、親中的な馬政権下において、教育部の政策から、通用ピンインが排除され、中国語は中国語らしく、台湾語は台湾語らしく発展していくことが出来るようになったのである。これを単に、馬政権の親中政策のみの影響と見ることはできない。なぜならば、教育部の担当部門である国語推進委員会の委員は前政権が任命したメンバーの任期途中なのである。ただし、台湾で政策の修正が浸透するには時間がかかる。しばらくは、通用ピンインの影響がある程度残るかもしれない。

なお、「中華民国」が、中国語の表記に、それまで用いていた、ウェード式系統のローマ字規則ではなく、2003年以降、通用ピンインを含む漢語ピンイン系統のローマ字規則を採用したことは、国民党と共に中国から逃れてきた中国人たちが、中国共産党への文化的抵抗を諦めたことを意味している。「中華民国」政府は、独自の中国語検定試験を行うなどしているが、台湾と中国の交流が進みつつある今、「中華民国」文化の中国への投降に歯止めをかけることが出来るのだろうか。

台湾語、客家語、原住民族諸語の発展によってこそ、台湾を独自の存在として世界に示すことができるのである。


2008年11月30日

posted by 親善大使 at 00:02| Comment(2) | TrackBack(0) | 台湾の声より
この記事へのコメント
良く分からないのだが,朝鮮日報にこのような記事が載っていたぞ.これを読むと,台湾語のローマ字表記が,一本化されたように思うけど,台湾語は北京語とちがうのに,このようなことができるのかな

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中国語のローマ字表記法、中台間で統一へ

 台湾で使用される漢字のローマ字表記法が中国と統一される。これまで中台間では使用する漢字だけでなく、発音をローマ字で表記する方法も異なっていた。

 台湾メディアは3日、台湾の行政院(内閣に相当)は1カ月以内に台湾内での漢字のローマ字表記法を、中国が使用している「漢語ピンイン」に全て変更するよう指示したと報じた。

 行政院はこのほど開いた会議で、台湾の全ての行政機関に対し、1カ月以内に行政区域の名称の中英対照表を作成するよう指示。これをきっかけとして、台湾内で使用される中国語のローマ字表記法(通用ピンイン)が全て中国式に統一される。

 行政院の関係者は「同じ漢字音に対する表記方式が異なれば混乱を招き、それによる経済的損失が大きいため、中国と統一することにした」と説明した。

 これまで中国と台湾はローマ字方式の半分近くが異なっていた。例えば、「毛沢東」は中国では「Mao Zedong」、台湾では「Mao Tsetung」といった具合だ。

 台湾側の今回の決定は、台北市長時代から漢語ピンインで公共施設の名称を表記してきた馬英九総統にとっては、就任後進めてきた中台間の政治経済交流の強化に続き、言語的にももう一つの「中台統合」を図る意味がある。

 台湾はこれまで、漢字の発音表記法として、一般にはローマ字ではなく独特の字母を使った1918年制定の注音符号を使用してきたが、中国では既に廃止され、漢語ピンインが導入されている。外国人向けのローマ字表記法に関しては、台湾ではさまざまな表記法が併用されてきたが、2002年には陳水扁政権が通用ピンインの使用を推奨した。中国式の漢語ピンインは1986年に国連で中国語の公式表記法として採用されるなど、国際的にも普及が進んでいるが、台湾だけは独自の表記法にこだわっていた。

 中台双方のメディアは、中台の発音表記論争で「統一論」が「独立論」を抑えたと伝え、「今後の中台関係進展の礎になる」と分析した。

 ローマ字表記法が統一されたことで、今後は中台間で漢字そのものの統一協議にも進展があるか注目される。中国は1956年に文字改革を断行し、漢字を簡略、変形した簡体字を採用した。その後は台湾が使用している繁体字(旧来の漢字)と簡体字のどちらは正統の漢字かをめぐり論争が繰り広げられてきた。

 簡体字の使用人口は現在、中国、シンガポール、マレーシアなど約13億人、繁体字は韓国、台湾、香港、マカオなどで使用されており、繁体字に近い略字を採用した日本も含めると使用人口は約2億人だ。国連は昨年、中国語の表記を簡体字に統一している。

キム・シヒョン記者
朝鮮日報/朝鮮日報日本語版

Posted by はえ at 2009年03月07日 11:45
はえさん。

 コメントいただき有難うございます。 お陰さまで、改めて記事を読み直し、少し理解できたように思います。 しかし、よくよく考えてみれば「ローマ字」自体が、人類の力の歴史を表したものともいえますね。
Posted by watanavi at 2009年03月09日 11:11
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