2012年06月08日

【知道中国 742回】どこまでもついて行きます下駄の雪・・・

<樋泉克夫愛知大学教授コラム>
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【知道中国 742回】                        一
ニ・四・念五

      ――どこまでもついて行きます下駄 の雪・・・

『妖魔化中国的背後』(李希光・劉康他、中国社 会科学出版社 1996年)

この本は香港返還を1年後に控えた96年に出版されている。70年代末に始まった
開放政 策による経済成長路線が定着し、89年の天安門事件の後遺症 も脱し、社
会は日々に豊かさを実感しつつある。1840年のアヘン戦争で奪わ れ、屈辱と汚
辱に塗れた近代の象徴である香港を奪い返すまでに国力は回復した――こういった
内外環境の変化が一部の知識人を 刺激し、「世界史的にも現状か らも、中国が
本来的に占めるべき地位を占めてどこが悪い」といった高揚感を呼び起こし、
『中国可以説「不」(「ノー」と言え る中国』に代表される世界に向 かっての
自己主張モノの出版ブームが起こったように思える。この本も、そんなブームに
便乗して出版されたように思える。

表紙を開くと、「士可殺、不可辱 ――中国古 訓」との大きな文字だ。「士は殺
す可し、辱しむる可からず」とは穏やかではないが、並々ならぬ“決意”の表白
だ。かくし て巻頭の「中国人覚醒了」と題されたい総論は、烈火のアメリカ批
判を展開する。

「中国人は覚醒した、ことに中国の青年知識層は 覚醒したと私はいいたい。彼
らは80年代初期のアメリカ崇拝 の心情から日々に明らかに脱しつつあり、現
在、彼らは敢えて自らアメリカを批判し、アメリカ入国ビザと(労働許可証であ
る) グリーン・カードを取得できないことすらも恐れない。/中国人は覚醒し
たといっておく」

この本は8人の共同執筆だが、その多くは78年――まさに中国の“夜明け”の年に南
京大学外文系英米文 学専攻クラスに進学し、アメリカ漬けの大学生活を送るこ
とになる。

「ア メリカの伝統的文化価値と政治制度の創始者であるルソー、エマーソン、
ジェファーソンなどの哲学と政治学の著作を朝から 晩まで読み耽り、時に進ん
でアメリ カにおける政治家の情況を学び、彼らの思想を同級生に熱く語って聞
かせた」。文学を専攻した者は「一日一冊。まるで飢え た狼のようにアメリカ
小説を読み、 学期の終わりには百冊を読みあげた」。ある仲間は「毎晩、古ぼ
けたトランジスター・ラジオを抱えて屋外に立ち、VOA放送の英語ニュースに聴
き入った。彼の記憶力は抜群で、聴き終わった後、15分間のニュースをほぼ間
違いなく我らに伝えてくれた。4年間の大学での勉強の結 果、知識に差はあるも
のの、思想感情の上からはアメリカに更にさらに近づいたものだ」

や がて彼らはアメリカへの留学を果たし、この本を執筆した当時はアメリカの
大学で教壇に立ち、あるいは「ワシントン・ポス ト」などの新聞社に勤め、あ
るいは アメリカで研究生活を続けている。そんな彼らが口を揃えて、「歴史的
にみて、アメリカは中国を直接侵略しなかったし、か つて日本が中国を侵略し
た際、アメ リカは物心両面から援助してくれた。目下、在米の中国公費留学生
は4.4万人であり、日本への留 学生の倍に相当する」。にもかかわらずアメリカ
は、李登輝や天安門事件を引き起こした人物などに連なる「中国政府に対する呪
詛の念を片時も忘れず、中国政 府転覆を呼びかけ続ける」ような「知識界の反
華反共分子」に「一定の市場を与えている」。このように「アメリカ人こそが我
ら のアメリカ批判の感情を徒に煽 り立てているのだ。アメリカのメディアにお
ける中国妖魔化(demonizing China) の陰謀こそが、中国知識人の心を呼び覚
ますのだ」と綴る。

アメリカにおける「妖魔化中国」の「背後」に あったアメリカに対する狂おし
いばかりの憧れ。「アメリカは中国を直接侵略しなかった」ということばは、ア
メリカ好きの 別の表現なのだ。この本は中国人知識人のアメリカに対する切々
たるラブレター集だった。《QED》
posted by 親善大使 at 08:10| Comment(0) | TrackBack(0) | 樋泉です。
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